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折坂悠太「夏が来た!」のカバー
NHK・BS「the Covers」(2024年7月11日放送)に出演した折坂悠太が、キャンディーズ「夏が来た!」をカバーしていました。
折坂悠太は夏の駅のホームにいる時に、イヤホンから流れる「夏が来た!」を聴いて、唖然としてしまったそうです。
本来乗る予定だった電車を1本乗り過ごして、見送ってしまった程の衝撃だったとのこと。
キャンディーズ・ベストアルバム「春一番」「夏が来た!」「ハートのエースが出てこない」収録 |
「冒頭1節目の歌詞に、それだけで宇宙があるみたいな感じがしますね」と話していました。
「夏が来た!」の歌詞冒頭です。
緑が空の青さに輝いて
引用:キャンディーズ「夏が来た!」作詞:穂口雄右
部屋のカーテンと同じ色になっても
少しどこかがちがうのは
きっと生きてるからだろう なんて考えて
なぜか君にあいたい
その発言に対し、司会のリリー・フランキーは次のように話していました。
このタイトルでキャンディーズの歌だと、ものすごく根っこの明るい曲だと思って俺は聴いていたけど、折坂くんはこの曲にひそむ暗部が気になるんだろうね。
NHK・BS「the Covers」(2024年7月11日放送)
弾けるような、ハツラツとした昭和のアイドル歌謡を、平成後期・令和世代の若いアーティストが新しい感覚で歌うと、「暗部」を見つめる歌になるのだなぁと思いました。
折坂悠太は番組内で次のように話してました。
夏って爽やかで明るいだけの季節じゃなくて、お盆もあるし、死の匂いがするというか、境界が曖昧になっていく季節というイメージがあって。
NHK・BS「the Covers」(2024年7月11日放送)
でも、それをあくまでも爽やかな詞にして、歌い上げられている感じがします。
人の一生っていうか、命の縮図みたいなものが夏の何ヵ月かに詰まっているような気がしますね
「夏が来た!」の作詞・作曲は穂口雄右
「夏が来た!」の作詞・作曲は、キャンディーズの「春一番」を手掛けた穂口雄右です。
8月はお盆もありますが、1945年8月6日広島に原子爆弾が落とされ、8月9日に長崎に原子爆弾が落とされ、8月15日に玉音放送で戦争の終結を伝えた月でもあります。
穂口雄右は1948年生まれです。
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まだ戦後の雰囲気が色濃く残るころに生まれ、幼少期を過ごしています。
もしかしたら戦争の不条理な死について書いた歌詞が「夏が来た!」なのかなと思いました。
そんなことを、たまたま8月に見た2本のドラマのセリフから感じました。
『アンナチュラル』のセリフから「夏が来た!」の歌詞を考える
1本目はTBS『アンナチュラル』。
映画『ラストマイル』の公開に合わせてTverで配信されていた『アンナチュラル』を全話見ました。
放送終了から6年。あの人気ドラマのシナリオ集が2024年8月に待望の発売!ドラマの名場面・名セリフが楽しめる。楽天ブックス文学部門1位の話題作。 |
脚本は野木亜紀子。
石原さとみ演じる主人公・三澄ミコトは法医解剖医。
日々、様々なご遺体と向き合っています。
ミコトは、実の母親が起こした一家無理心中事件の唯一の生存者でもあります。
ミコトは法医解剖医として、大切な人を亡くした後、遺族が生きていくためにも「不条理な死」の原因を突き止めたいと考えています。
『アンナチュラル』第7話「殺人遊戯」で次のセリフが登場しました。
ミコト「生存者の罪悪感。家族が災害で亡くなったり、哀しい事件に巻き込まれた人が、感じてしまうことがある。亡くなった人と自分を分けたものはなんなのか。どうして自分だけが、生きているのか」
引用:野木亜紀子『アンナチュラル』(河出書房新社)シナリオ集 第7話「殺人遊戯」
「夏が来た」の歌詞は「生きる喜び」「自分が生きている不思議さ」を描いています。
自分がなぜ生きている側にいるのか、亡くなった人との違いに戸惑いを感じているようにも読むことができます。
砂の上に髪をひろげて
引用:キャンディーズ「夏が来た!」作詞:穂口雄右
ねころんで夢を見て
こんな不思議な出来事が
あっていいものかと思うくらい
幸せな雲が風におどるよ Uh… La la la Uh… La la la
穂口雄右の親の世代は戦争に兵士として駆り出された年齢です。
穂口雄右の周囲にも戦争に行った経験のある人もいたでしょう。
穂口雄右も生まれる時代が20~30年早ければ、兵士として戦争に行っていたかもしれない。
亡くなった人と生きている自分を隔てたものは何か?
自分が生きていることを「こんな不思議な出来事」と歌っているようにも読めるのです。
『虎に翼』のセリフから「夏が来た!」の歌詞を考える
そして2本目のドラマが、吉田恵里香脚本・NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』。
第19週「悪女の賢者ぶり?」の放送で、裕福な家庭で育った女学生・美佐江が、自分を崇拝する少年・少女たちを使って事件を起こしているかもしれない、というストーリーが展開していました。
美佐江「佐田先生は心から納得した答えが出せます? どうして悪い人から物を盗んじゃいけないのか、どうして自分の身体を好きに使ってはいけないのか……どうして人を殺しちゃいけないのか」
引用:吉田恵里香『NHK連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ集 第19週[全26巻]』
主人公の寅子(伊藤沙莉)は答えることができませんでした。
「どうして人を殺しちゃいけないのか」
兵士として戦争に向かえば、自分が殺す立場になるかもしれない、逆に殺される立場になるかもしれない。
その紙一重の差は何なのか?
もしかしたら「夏が来た!」の主人公の「僕」は、そんなことを考えて「砂の上に髪をひろげて ねころんで夢を見て」いる自分のことを「こんな不思議な出来事」と感じているのかもしれないなと思いました。
「夏が来た!」の「君」は誰か?
「夏が来た!」の歌詞に「君」は2か所登場します。
まず1番の歌詞の冒頭。
緑が空の青さに輝いて
引用:キャンディーズ「夏が来た!」作詞:穂口雄右
部屋のカーテンと同じ色になっても
少しどこかがちがうのは
きっと生きてるからだろう なんて考えて
なぜか君にあいたい
そして2番の歌詞の冒頭。
季節が僕の背中にやきついて
引用:キャンディーズ「夏が来た!」作詞:穂口雄右
白いサンダルが似合うようになったら
今日はそうだよ少しだけ
大人のふりしてみよう なんて考えて
君に電話かけるよ
「君」とは誰なのか?
普通に考えたら恋人でしょうか。
友人かもしれない。
家族かもしれない。
私は「亡くなった大事な人」ではないかと考えました。
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「きっと生きてるからだろう なんて考えて」「大人のふりしてみよう なんて考えて」「なぜか君にあいたい」と思う僕。
8月のお盆に帰ってくる、亡くなった大事な「君」。
「君」の年齢は分かりません。
亡くなってからは歳を重ねない「君」。
「生きてる」「僕」は成長して歳を重ね、「大人のふりしてみよう なんて考えて」いる。
そして2番の「季節が僕の背中にやきついて」は、広島にピカドンが落ちた時にできた「人影の石」を想起させると思うのは、さすがに考えすぎでしょうか?
穂口雄右がこの文章を読んだら「全然違うよ」と笑うかもしれません。
あくまでも、しろくろによる歌詞の一考察です。
「夏が来た!」は、このような考察をしたくなる哲学的な歌詞です。
もし穂口雄右が「生と死」を描いた歌詞を、若くてキラキラしたアイドルのキャンディーズに意図的に歌わせたとしたら、なかなかエグイなぁと思いますね。
朝ドラの『虎に翼』については、こちらの記事:ファン必読!吉田恵里香『虎に翼』シナリオ集は読み物として面白い で書いています。